【Vol.1】俳優ファン・ジョンミン全盛期の幕開け

近頃、韓国映画界では観客動員数1000万人以上を記録する作品が続々と生まれています。1000万とは韓国の人口の5分の1にあたる凄まじい数字ですが、今年主演を務めた2本の映画を立て続けにメガヒットさせた俳優さんがいます。その名はファン・ジョンミン(황정민)さん。第1回目となるこのコラムでは彼が出演した映画2本に対する感想を自分なりの視線で勝手に批評します。

国際市場・국제시장

국제시장

観客動員数14,260,489人(歴代2位)

日本では「国際市場で逢いましょう」というタイトルで公開された映画です。今年の旧正月連休中に観客動員数1400万人を突破し、国中で話題の中心になった作品です。韓国近代史の中で最も重要なポイントである日帝時代と朝鮮戦争を経て、超高度経済成長期から現在までを一人の男とその家族を取り巻くエピソードで網羅した超大作。

あの、先に言っときますが、個人的にはこう言ったジャンルの「どうぞ、どうぞ、思う存分泣いてもいいですよ」的な作品が元々好きではないです。その上、全体のストーリーだって、山ほどのマスメディアを通じて紹介されていたりして、わざわざお金を出して観るまでもない映画だなぁって。

でも、自分とは何か縁があったのか。先月、東京から帰国する飛行機の中で観てしまったのです。往復のエアーはマイルで賄えた事だし、映画でも一本鑑賞したら元のさらに元が取れるというセコイ下心から生まれた偶然だと思いますがね(笑)。

それがですね。いやいや、主人公役のファン・ジョンミンさん。彼の気迫の演技に吸い込まれて、気が付いたら号泣をしている自分がいました。大人になってからは、他人の前で一度も涙を見せた事のない。この俺様が。ぱっと見でも200人はいそうな飛行機の中で、わっと泣き崩れたのですよ。さすがに隣の女性の方に気づかれたようでチラ見された時は、思わずあくびのふりをしちゃいました。この涙はあくびのせいだよって(笑)。

しかし、この映画の監督は相当の欲張り屋さんですね。企画の段階から韓国全土を涙の海にさせようと張り切っていたに違いない。そして、その狙いが物の見事に当てはまったケースでしょう。それにあの大ヒット作「海雲台」を作り上げた人らしくCGの使い方もうまかった。肝心なストーリーの展開だって正統派にしてはそこそこ洗練されたとこがありましたね。でも、それが個人的に熱狂するまでには至らなかったなぁっと。

結論を言いますと韓国近代史に興味のある方には迷わずオススメ出来る作品です。脇役の俳優さんたちの存在感も抜群。何と言ってもファン・ジョンミンさんの演技力は200点をやっても惜しくない。総評的には、この俺様を泣かせてくれたのを大目に見てあげて75点!

ベテラン・베테랑

베테랑2

観客動員数13,406,147人(歴代3位)

この作品の監督であるリュ・スンワンさんは「韓国のタランティーノ」とも言われ、長年に渡り「韓国B級映画の代名詞」として君臨していた人です。彼の過去の作品に対する僕個人の評価はいつも「タランティーノに比的するには2%ほど物足りない何かがある」でした。まるでパズルを組み合わせるかのような引き締まったストーリーを売りとするタランティーノの映画に比べて、何って言いますかね・・・たとえシナリオを執筆する段階でちょっと行き詰まった部分があれば、「ここは何となくアクションで埋めればいいわっ」と言った適当さがあるのです。まぁ、こう言った単純明快なとこが彼流のB級映画の魅力であるかも知りませんがね。

リュ・スンワン監督が発表した作品の中で最も好きなのは、おそらく僕が約30年間観てきた映画でランクを付けると10位以内に入るのであろう、2010年に公開された「不当取引・부당거래」ですね。同じくファン・ジョンミン主演の映画ですが、リュさんの監督人生の中で唯一他人の脚本を自ら脚色した作品でもあります。オリジナル脚本を書いたのはパク・フンジョンさん。後に映画監督となり「新世界・신세계」という韓国映画史に残りそうな名作を作り上げて、韓国のハードボイルドの新世界を開拓した方です。

あくまでも個人的な見解ですが、リュ監督はそのパク・フンジョンという飛び抜けた才能を持ったシナリオ作家と出会い、共同作業をして行く中で、自分自身の持ち味でもあった「2%の物足りなさ」をアクションだけでなくストーリー性で埋めるコツを掴んでいるのはないかと評価したいです。その余波はリュさんが監督・脚本を担った「ベルリン・베를린(2012年公開)」でもよく現れていますよね。つまり、「不当取引」以前と以降で映画に取り組む姿勢が明確に変わったとも言えるでしょう。

ちょっと前兆が長くなってしまいましたが、話をこの「ベテラン」に戻します。気になる出演陣は最早ノリにノッテるファン・ジョンミンさんと若手の中では数少ない演技派俳優として高く評価されるユ・アイン、そして名品助演と言われるユ・ヘジンさんとオ・ダルスさん。皆さん、申し分ない演技力を見せていますよ。ユ・アインは錚々たる先輩達との共演で緊張していたのか(まぁ無理もない)、多少力んでいるように見えたのが玉の傷ですがね。まぁ、そのへんはパス!(笑)

そんな中、他の脇役でアレって思った方がいました。スーパーモデル兼タレントとして大活躍中のチャン・ユンジュ。彼女にとっては映画デビューとなりますが、下品で淫らな性格の女子刑事役を見事に演じている。いやいや、その図々しい演技には参りましたよ。近頃、感じた事のない新鮮さが確かにあった。断言できますが、今後の彼女は様々な映画の脇役で引っ張りだこになるのでしょう。日本にいる皆様もぜひ彼女を注目してて下さいね!

ストーリーはとても単純。この作品以前の2作がリュ監督にとっては重すぎたのか、とにかくテンポの速い展開とド派手なアクションで鬱憤を晴らしている感があった。悪役は地獄でもやって行けそうなクズ野郎で財閥2世のもあるイケメン君。世の中の法律を完全無視して好き勝手に犯罪を犯す坊々さん。どの角度から見ても間抜けな人間だけど、正義感だけは充満なやんちゃなオヤジデカ。この二人を中心とした対決がそこそこ面白いのです。

しかしですね、ぶっちゃけ1300万人を動員するまでの価値があるのかなっていう疑問を抱いた僕です。まぁ、間違いなくそのへんは一時前に起こった大韓のワガママ娘によるナッツ事件だとか、近頃のロッテグループのクダラナイ兄弟喧嘩、桁外れの脱税やら弱い者を奴隷化すると言った財閥のド偉い方々に対する一般市民たちの不満が絶頂に達しているこの社会の風潮に大いに助けられた数字でもありますね。そういった意味での代理満足度が、この国の1300万あまりの人々の心を掴んだ結果に繋がる数字だと評価します。

総評は83点。ファン・ジョンミン最高!脇役のみんな、いい味出してるぞ!日本でも公開されると思いますが、単純明快な娯楽映画がお好みの方は映画館に足を運ぶ価値あり!

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マッコリマン
tomodachinguのソウル本部長です。
主に企画をしたり、取材をしたり、文を書きます。
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