『Vol.20』ナPDが提案するバラエティ番組の未来

〇〇研究所

どうも、どうも、『バラエティ番組研究所』のぺ所長です。

今回は珍しく、ある『仮想劇』からはじめますね。

【KBS編成局のお偉い方の部屋】

ナPD これが長年構想してきた新番組の企画書です。

偉い方 えっ? 二人のイケメンがど田舎の山奥でご飯を作るだと?

ナPD はい。たま〜にケストが来たりします。

偉い方 ゲストは山奥に来て何をするんだ?

ナPD 一緒にご飯を作ります。あ、1日3食。毎日。

偉い方 こんなんで視聴率取れるんかね? やっぱり無理だわー。

ナPD ……

上記の仮想劇の会話。わずか数年前までの地上波局では充分にあり得る話だったと思います。あ、あくまでも僕の予想ですので、くれぐれも誤解がないようにお願いします。

ナ・ヨンソクPD(나영석피디)

ナPDと言えば、韓国の芸能番組に詳しい日本人の方の間でもその名が知られているほどの売れっ子PD(韓国ではディレクターと呼ばない)。国内では全国民に愛されている『1泊2日』という番組の『生みの親』としてめちゃくちゃ有名な方なんです。

タレントでもなく一つのテレビ番組のディレクターさんが全国区のスターになるケースってかなり珍しいことなんですけどね。それに業界ではリアルバラエティ番組ブームに火をつけた立役者として高く評価されているので、韓国放送界全体においても比重の高い人物なのは間違いないようです。

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この方です→わりと普通のオッサン

そのナPDさんが長年属していたKBSをやめた後、とある媒体とのインタビューでこんなことを述べていました。

“何年も続けてきた『1泊2日』の制作で自分を含めたスタッフ全員の疲労度がピークに達し、心身ともに満身創痍の状態だった。ネタのアイデアも底をついてきて局側には3ヶ月〜半年ほど再整備の期間を挟むシーズン制の導入を提案したのだが硬く断られた”

毎週、全国の隅々を飛び回り100人以上のスタッフを差し招いて演出までこなせばならなかった彼の苦労が痛いほど分かる話であります。一方、局としてはあの番組一本で稼げるスポンサーマネーが半年で何百億ウォンの世界なので莫大な利益を捨てるわけにはいかなかったと。まぁ経営論で考えたら分からなくもない。

さらにナPDはインタビューの後半にこんな発言をしました。

“バラエティ番組の未来はヒューマンドキュメンタリーのような世界になるんじゃないかと思います。いかに人間味を強調できるのかが勝負どころではないかと”

おやおや、この人なんて不思議なことを言ってるんだろう。バラエティ番組で人間味を強調だと? 僕は首を傾げてしまいましたよ。

演出無きの演出法

ナPDが胸の内に潜めていた『バラエティ番組の未来』は、彼が大手ケーブルテレビ局へ転職してから一つずつ形になっていくのです。

その第1弾が『花よりおじいさん・꽃보다 할배』。

旅の案内人であるイケメン俳優イ・ソジンを筆頭に、5人のおじいさん軍団(大御所の俳優さんたち)といったどう考えてもアンバランスなキャスティング。海外で右往左往の大騒ぎをする彼らの素直な姿をみせるのが狙いだったのでしょう。演出にほとんど手を加えないところがとても新鮮でした。この番組は後にシーズン制となり『女優シリーズ』、『中年歌手シリーズ』、『若手俳優シリーズ』と、現在まで大好評の中、放送されています。

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一時、社会現象にもなった名番組『花よりおじいさん』

そして第2弾は『三食ご飯・삼시세끼』。

彼がインタビューで述べていたヒューマンバラエティの真価が余地なく発揮された番組であります。

常にクールで都会っ子のイメージが強かった俳優『イ・ソジン』と田舎とは全く縁がなさそうに見える2PMのアイドル『オク・テギョン』。この二人が自給自足しながら、ただ単に毎日3食のご飯を作って食べる。毎週訪れる豪華ゲストもご飯を作り、畑仕事をするだけ。さらにペットも家畜の動物も主人公扱い(笑)。

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自給自足の有機農ライフ『三食ご飯』

その田舎の農村編の次に制作されたのが、『三食ご飯・漁村編』。ソウルから1日かかりで移動せねばならない小さい島の古い一軒家に放り出される俳優チャ・スンウォンとユ・ヘジン。毎日自力で火を立ててご飯を炊く。そして庭で作った野菜と自ら釣ってきた新鮮な魚で様々な料理を作って食べるのが1日の日課です。この番組でもペットのワンちゃんと猫ちゃんが大活躍。

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全国に『チャジュンマ』ブームを巻き起こした漁村編

田舎暮らしを観て癒される都会人たち

近頃テレビを観る時間が極端に減ってきた僕でも、この『3食ご飯』が放送される時期だけは毎週欠かさず観てるんですよ。なんかですね。最後までただぼーっと見入ってしまうという表現が正しいのかも知れません。そして毎回「このような田舎暮らしもいいよなぁ」と思わずひとりつぶやいてしまうんです。

この番組は大胆な演出で出演者をいじることなく、ありのままの田舎暮らしをみせるてくれるのです。超売れっ子の芸能人がガスも入らない家で火を起こして自炊をし生きるために料理をする。何となく本来の人間のあり様を眺めているような感覚が実に面白いんですよ。

自給自足で手に入れた食材で三食のご飯を作る人間の本性とその過程で得られる素直な喜び。それって大都会ではもう味わえなくなった『人間味』じゃないでしょうか。繁華街に出れば美味しいものが溢れている。社会は常に最先端へ激変して行き、我々は必死でそれに追い付こうとしている毎日。

このようにいつの間にか現代人が忘れかけていることを再認識させてくれるのがこの番組の最大の魅力だと思います。そしてそれが「ナPDさんが提案するバラエティ番組の未来」ではないでしょうかね。

みなさんが描いている未来はどんなモノですか?

僕は海が見える田舎でゆっくり暮らしたいという小さな野望を持っているのです。実現できるのかな? うむ、10年以内には実現させたいなぁ。とつぶやきながら、今日の研究所のドアを閉めますね。

次回の『◯◯研究所』は2月7日(日)に更新予定です。

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マッコリマン
tomodachinguのソウル本部長です。
主に企画をしたり、取材をしたり、文を書きます。
「韓国のこんなことが知りたい」という方はメール下さい。