【第10回】下町の追憶とバナナ牛乳

小学校へ入る前の幼年期の記憶を辿ると『洞・ナムガザドン』という下町が真っ先に頭に浮かぶ。位置的には今の『ソウルW杯競技場』の近く。現在は再開発を経てその一帯が『大型アパート団地』になっているが、僕の幼年時代にはぼろ〜い一軒家がずらりと並ぶ下町に過ぎなかった。

あぁ…今でもたまに夢に出てくるあの下町。僕の幼年期の全てだったあの町。やたら、ワンちゃんを飼っている家が多かったと覚えているが、「当時は泥棒が多い時代だったのよ」と母は教えてくれた。確かに父は、寝る前に必ず『野球バット』を布団の近くに置いていたが、それが『泥棒対策』だったとは(笑)。

我が町にも『セマウル運動』がやって来た

僕が住んでいた家の裏には小さい山があり、いつも町の子達と誰が一番はやく頂上に登れるのか走り競争をしていた。そして時々ヌナと手をつないでその山に登り、綺麗な夕焼けをぼーっと眺めていた記憶もある。まぁそれくらい町の人々に愛されていた小さい裏山は下町のランドマーク的な場所だったのだ。

뒷산

当時は三頭身、今は八頭身。

そんな幼年期のある日。

当時の僕の目には、明らかに『タンク』に見えていたのであろう『建設用の重装備』が何台も押し掛けてきては、轟音を立てて、大好きな裏山をぶっ壊し始めたのだ。いつもの通り、家の外で遊んでいた僕は細い目を丸くして「オンマー早く外に出て来て〜大きな『タンクたち』が山ちゃんを壊してるよ」と泣きながらオンマの方へ駆けつける。そしたら、オンマは「違うの…この山に家を建てるらしいのよ」と淡々とした口調で説明してくれたのだが、その表情には寂しさが漂っていたような気がする。

それは、『前回のコラム』にも書いた『セマウル運動』の余波がとうとう我が町にも浸透して来たことを意味する。

あれから何ヶ月後、その裏山は形を完全に失い、真ん中にはコンクリートの階段が造られて両サイドに家が何軒も建てられるようになる。おそらく、当時のソウルのあちこちではコンクリートが足りなくなるほどの都市開発が大々的に行われていたに違いない。

そんなセマウル運動が呑み込んでしまった裏山での走り込みの成果が出たのか、僕は元気に育ち下町の付近にあった小学校へ無事に入学する。でも、小1の1年間はそれほど飛んだエピソードを思い出せず、駄目元でオンマにぶら下がってみたら、あの『銭湯大事件』があったでしょうと教えてくれた。えっ?銭湯で何があったっけな…。あ、思い出した!あの『コーラ瓶』!(思わず爆笑してしまった僕)

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小1の時の恥ずかしい服装

銭湯→コーラの空き瓶→⭕️⭕️→バナナ牛乳

当時の下町には今でいう『都市ガス』が普及されていなく、どの家も『プロパンガス』を使っていた。でも取り替え式のボンベの火力では料理をするのがやっとの事で毎日シャワーなんて夢のまた夢。町のみんなは大体週一のペースで銭湯に通っていたのだ。

そんな訳で下町の中に一軒しかない銭湯は、祝日か日曜になると人が溢れ出るほどの修羅場になったが、僕にしてみりゃ一週間の中で最も待ち望む日でもある。なぜかというと、銭湯の帰りにオンマがいつも『バナナ牛乳』を買ってくれたからだ(日本のみなさんも大好きであろう『バナナ牛乳』は74年から発売され始め、今も全国民的な嗜好品として君臨する)。

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当時の子供たちのロマン『バナナ牛乳』

そして今ではあり得ないかも知れないが、僕は小1の時までオンマに連れられて町の銭湯の女子風呂に通っていたのだ。まぁ銭湯の中で近所に住んでいる素っ裸の女の子に出会っても、平然と風呂場で一緒に水遊びをしていたほど『平和な時代』であった。

そんな平和な時代のとある日曜日に、あの事件は起きた。いや、僕がしでかしたという表現が正しいかも。

銭湯に入る前に気持ち良くコーラを一本飲み干した僕はその空き瓶を風呂場に持ち込み手遊びしていた。ところが、なぜそんなことをやっちゃったのか未だに謎だけど、僕はなんと空き瓶の穴に『おチンチン』を突っ込んでしまったのだ。そしたら、一瞬であれが勃起してしまい、どうしても瓶が抜けなくなる『大惨事』が起こったのである。戸惑った僕は思わず「オンマーオンマー」を連発。

「きゃー、この子ったらー、何してるの?」、「ちょ、ちょっと、こいつ、誰の子ですか?」と町の女性で満杯だったお風呂場が大騒ぎになる。そんな僕を発見して、驚愕するオンマ。両手で空き瓶を握りしめて引っ張ろうとするが、「いてててて、オンマ、痛いよ〜」と叫び出す僕。

「こりゃーあかん」と判断したオンマは即、僕を風呂場の外へ連れ出し、光の速度で冷蔵庫の中のバナナ牛乳を一本取り出しては素早くストロを刺しこみ、僕の口に食わす。そしたら、その甘味に気を取られたせいなのか、『おちんちん』のサイズが普段通りに戻り、空き瓶がすぽっと抜けたのである。

帰り道でため息ばかりのオンマは「あんたは何でいつも突拍子もない事ばっかりするの…本当に困っちゃうわ。今日は知ってる人も大勢いたし…。噂にならなければいいんだけど…。もうオンマ、来週から恥ずかしくて銭湯にも行けないわよ」と泣きそうな顔でブツブツ呟いていた。そんなオンマの悪い予感は物の見事に当たり、しばらくの間、町中で『コーラ瓶ママ』と呼ばれていたとか。

一方、僕はというと、その『コーラ瓶事件』のおかげで銭湯の女子風呂をようやく卒業し(ていうか銭湯側から立ち入り禁止を命じられる)、次の週から堂々と男子風呂デビューを果たしたのである。あ、銭湯の帰りにはいつもバナナ牛乳をストロで吸い込みながら、あの日に起きた自分の『おチンチンの変化』について真剣に考えるようになったのだ(笑)。

삼형제

細い目三兄弟

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マッコリマン
tomodachinguのソウル本部長です。
主に企画をしたり、取材をしたり、文を書きます。
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