第1回 出会い

「このタイミングが、オレの人生の分岐点だ」
と肩を張りつつも、内心不安と希望を行き来する、
新米店主歴3日目の夜。

“あの、ひとりですけど、いいですか?”
と、照れ笑いを浮かべて店内に入って来る男がいた。

パッと見30前後、背が高く、色白で、
常にニコニコ顔の、ハツラツとした好青年。

たぶん、
これがアイツに対する第一印象だったと憶えている。

ヤン・キョンス × マッコリマン
マッコリマン
この間の東京は、楽しかったね。
ヤンチギ
はい、おかげさまで、めっちゃ楽しかったです!
でも、思わぬアクシデントもあったりして(笑)
マッコリマン
そうなんよー。オレ、
新宿のライブハウスの階段で足ひねっちゃって…
ヤンチギ
そう、そう。足首めちゃくちゃ腫れ上がって、
途中でリタイアしてましたよね(笑)
マッコリマン
結局、完治まで1ヶ月も掛かっちゃってさぁ…。
ヤンチギ
それは大変でしたね…
マッコリマン
ま、余談はここまでにしよう。
とにかく、今日はよろしく!
ヤンチギ
はい、よろしくお願いします!
ヤン・キョンス
マッコリマン
でさ、もう5年前になるけど、
うちの店にはじめて来た日って、覚えてる?
ヤンチギ
もちろん、覚えてますよ。 当時ね、韓国でも、
やっと一人酒の文化が流行り出した頃でしたけど、
知らない人の店に、一人で飲みに行ったのは、
あの日が、生まれてはじめてだったんですよ。
マッコリマン
へ〜、そうなんだ。
何があったんだろうね、あの日の君に?
ヤンチギ
それが、自分でもよく分からないんです。
いつも通っていた道のビルに、
不思議な看板が出ていて、
ん? ここ、面白いかもって(笑)
マッコリマン
オレだって、少し驚いたよ。
韓国にも、一人で飲みに来るヤツが、
実際に、いるんだと思ってさ。
ヤンチギ
まぁ、そうでしょうね。
でも、わりと居心地がよくて、
ついつい何時間も長居しちゃって、
飲んで、しゃべりまくる的な(笑)
マッコリマン
そう。日本の「ワンピース」が死ぬほど好きで、
兵役も自ら志願して海軍にしたとか言いながら、
酔っ払って「海賊王におれはなる!」って(笑)
ヤンチギ
あっはははは。懐かしいですね。
2013年のキョンス君

2013年のキョンス君

マッコリマン
まぁ、今思えば、
きっと、何か縁があったんだよ。
あの後も、すっかり仲良くなって、
2〜3日に一度のペースで飲みに来たりして。
ヤンチギ
そうなんですよ。
その頃って、ふところ事情もよくなかったのに。
マッコリマン
たしか、うちに余ってた酒は、
全部君に回したりしてたな(笑)
ヤンチギ
ほんと、感謝してますよ。
あの時があったからこそ、
今の自分がいるようなものなので。
マッコリマン
いやいや、そんな君が、
いまやメディアに出まくって、
スター作家さんって呼ばれるなんて、
思いもよらなかったね。
ヤンチギ
自分で言うのもあれですけど、
人の人生って分からないものなんです(笑)
マッコリマン
ほんと、そうだね(笑)
ところで、ちょっと話題を変えて、
学生の頃の話を聞かせてもらえるかな?
ヤンチギ
幼い頃から絵を描くのは好きでしたけど、
中学高校の時は、とにかく、
ヒップホップに夢中でした。
特に、中学の時は、ヒップホップ自体が、
そんなにメジャーなジャンルではなくて、
周りに聴いているヤツなんて、
ほとんどいなかったですけどね。
マッコリマン
ヒップホップのどういうところに惹かれたわけ?
ヤンチギ
うーん、なんと言うか…。
リズムに合わせて、アドリブでラップを歌うとか、
の「即興性」ですかね。
リズムと言葉で遊ぶ感覚がたまらなかったんです。
実際、ぼくは「B-BOY」としても活動していたし、
ラップを一生懸命書いていた時期もありました。
マッコリマン
プロになろうとは思わなかった?
ヤンチギ
そこまで才能ないって自覚しまして(笑)
マッコリマン
まぁでも、その頃に身につけたものが、
近年の君の作品によく表れている気もするけどね。
ヤンチギ
あ、それは絶対あるでしょうね。
「言葉遊び」っていう部分では、特に。
ヤン・キョンス × マッコリマン
マッコリマン
オレの中高時代は、「ロック」だったね。
皆「ロック」に熱狂しながら、
反抗期の鬱憤を晴らしていた。
ヤンチギ
なるほど。何となく分かるような気がします。
マッコリマン
ところで、君は中高時代に反抗期はなかったの?
ヤンチギ
あぁ、反抗期ですか…
僕の場合は、それより何より、
親父に対する不満がものすごくて…
マッコリマン
あのー、つまりそれが反抗期ってことだよね?(笑)

<つづきます>

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「絵を描く時が一番幸せです!」

ヤン・キョンス

1984年1月26日・韓国ソウル生まれ

各種SNSで「絵画王 ・ 梁治己(ヤンチギ)」
のペンネームで、大学生、サラリーマン、
主婦など、一般人の共感を得るユニークで
多彩なイラストを制作する一方、
現代の目線で再解釈した仏教美術を
専門とする現代美術家として、
国内外で活発に展示活動を行っている。

2015 ノルウェー「Maidans Fastival」作品展示
2016~2017 オランダ国立世界文化博物館
「THE BUDDAHA」作品展示
2016.05.25 「あ、『やりがい』とかいらないんで、とりあえず残業代ください」(日野瑛太郎作)
韓国語翻訳へのイラスト提供
2016.11.15 イラスト・エッセイ集 出版『실어증입니다. 일하기 싫어증』(オウア)
2017.04.13 「キム課長(KBSドラマ)職場白書」イラスト提供
2018.03.29 イラスト・エッセイ集 出版「JOB多なCUT」(ウィズダムハウス)

ABOUTこの記事をかいた人

makgeolliman

マッコリマン
tomodachinguのソウル本部長です。
主に企画をしたり、取材をしたり、文を書きます。
「韓国のこんなことが知りたい」という方はメール下さい。